最近の知見・成果(H22年度)


【研究活動の概要】
 本センターでは、ものづくり産業や次世代グリーンビークル社会の発展に貢献するため、21世紀COE「自然に学ぶ材料プロセシングの創成」および第I期知的クラスター創成事業「環境にやさしいナノテクを利用したものづくり」の成果を継承・発展させるとともに、第II期知的クラスター創成事業および愛知県「知の拠点」構想と連動し、環境と人類の調和に向けたバックキャスト研究開発理念のもと、環境にやさしい材料テクノロジーの研究を進化・発展させ、先導的部材開発を実現する産学連携研究教育拠点を形成する。また、「バックキャスト」理念を備え、ものづくりやグリーンビークルの発展をリードする若手研究者等の人材育成を行う。

 本年度は、センター創設の3年目として、本センターの基盤確立に向けた活動を重点的に実施することとし、グリーンビークルに関連する材料テクノロジーへの新展開を図り、下記に述べる研究活動、教育活動、拠点形成の重点化推進を図った。
 また、本年度は、本センターとエコトピア科学研究所が共同提案した「グリーンビークル材料研究開発拠点」に関して、低炭素化社会および人との調和を実現する未来自動車(グリーンビークル)に関する拠点建築、材料研究の組織的な実施、シンポジウム開催等に協力した。
 研究活動に関し、4基幹グループと産学連携推進グループによる一体的な研究推進、材料テクノロジーに関する共同研究等の連携研究の推進、競争的研究資金獲得やプロジェクト研究の提案などを行った。また、知的クラスター創生事業の実施や愛知県知の拠点等を通した地域の産業振興への貢献に注力した。

(1)4基幹グループと1産学連携推進グループによる一体的な研究推進
 バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術の発展・確立を目差し、研究対象を重点化し、研究グループ体制(物質知略、エネルギー知略、プロセス知略、安全性知略の4基幹グループ、および、産学連携推進グループによる効率的・一体的な推進を狙った。

 研究成果の内容については後述するが、本年度は、本センターのメンバーの成果に限ると、投稿論文114報、図書・著書20報、発表・講演533件(内、国内会議:302件、国際会議:231件)、招待講演77件、新聞報道13件、テレビ放映1件、特許出願・公開・取得等19件、主な外部資金獲得67件、受賞30件、主催共催会議開催16件などの成果が得られた。

 特記事項として、関 隆広教授・永野修作助教らの論文が材料科学分野の最近10年間の最高被引用度論文に選定、河本邦仁教授・太田裕道准教授らの第32回応用物理学会論文賞(応用物理学会優秀論文賞)、高井 治教授の韓国表面工学会功績賞および科学技術への顕著な貢献 2010(ナイスステップな研究者)、金武直幸教授の日本塑性加工学会フェロー、大槻主税教授の2010年度日本バイオマテリアル学会賞(科学)、樫田 啓助教・浅沼浩之教授らのAngewandte Chemie International Edition誌Hot Paper、および、Chemistry A European JournalのVery Important PaperとInside cover等への選定、などの成果が挙げられる。

 また、本センター関連専攻の大学院学生・ポスドク研究員・助教が受賞した優秀論文発表賞等の受賞は51件であった。

 協力メンバーの特記事項として、伊藤秀章特任教授の廃棄物資源循環学会功績賞、楠 美智子教授の第55回日本顕微鏡学会・学会賞(瀬籐賞)、平出正孝教授の日本鉄鋼協会学術貢献賞(浅田賞)、清水研一助教(薩摩研究室)の東海化学工業会賞(学術賞)、久米裕二助教(金武研究室)の日本塑性加工学会賞(新進賞)、片桐清文助教(河本研究室)の日本セラミックス協会賞(進歩賞)、樫田 啓助教(浅沼研究室)のPCCP Prize (Certificate for Outstanding Achievement of Young Scientists in Physical Chemistry and Chemical Physics)、中尾早織さん(化学・生物工学専攻、M1、馬場研究室)の名古屋大学若手女性研究者サイエンスフォーラム総長賞、などの成果が挙げられる。

(2)連携研究の推進については、産学連携推進グループが中心となり、共同研究等の効率的な方法を試行し、民間企業等とのマッチング・共同研究を実施した。

(3)競争的研究資金獲得については、拠点形成補助等に関するプログラム等への応募を検討・実施した。

(4)「グリーンビークル材料研究開発拠点」の活動に関して、低炭素化社会および人との調和を実現する未来自動車(グリーンビークル)に関する拠点建築、材料研究の組織的な実施、シンポジウム開催等に協力した。


【研究成果の概要】
 ものづくり産業やグリーンビークル社会における今後の課題のソルーションとして、環境に優しい材料技術を実現するために必要な知的基盤である「バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術」の確立が必要である。この視点の追求により、低環境負荷プロセスの開発、高性能代替材料の開発、省エネを実現する材料の先導的研究技術開発を進めることができる。
 本年度は、バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術の発展・確立を目差し、研究対象を重点化し、研究グループ体制(物質知略、エネルギー知略、プロセス知略、安全性知略の4基幹グループ、および、産学連携推進グループ)による効率的・一体的な推進を狙った。なお、研究対象は、鉄鋼・金属、高分子、セラミックス、生体材料などの材料全般で、従来枠に囚われることなく、環境と人類の調和に向けた知略のもとで最先端の研究開発を進めた。

1.物質知略
  「金属材料の表面処理に関する研究」
“Study on Surface Treatments of Metallic Materials”
興戸正純(マテリアル理工学専攻)
「先端ナノ材料評価のための先進電子顕微鏡法の開発」
“Development of Advanced Electron Microscopy for Technological Nano-materials”
田中信夫(結晶材料工学専攻)
(1) 収差補正TEM を用いた3C-SiC/Si(100)界面の3 次元原子配列構造解析
“Analysis of Three-dimensional Atomic Structure at 3C-SiC/Si (100) Interface by Aberration-corrected Transmission Electron Microscopy”
(2) Automated Mapping of Lattice Parameters and Lattice Bending Strain Near a SiGe/Si Interface by Using Split-HOLZ-Line Patterns
「超高圧超高温下での新材料・新結晶の創製」
“Synthesis and Crystal Growth of New Materials in High Pressure and Temperature”
長谷川 正(マテリアル理工学専攻)

2.エネルギー知略
  「高効率熱電変換材料・デバイスの開発」
“Development of High-Efficiency Thermoelectric Materials and Devices”
河本邦仁(化学・生物工学専攻)
「環境にやさしい化学プロセスとクリーン自動車のための固体触媒」
“Solid Catalysts for Environment-friendly Chemical Process and Clean Vehicles”
薩摩 篤(物質制御工学専攻)
「交互吸着法による半導体ナノ結晶積層薄膜の作製と光電気化学特性制御」
“Preparation and Photoelectrochemical Properties of Layer-by-layer-assembled Multilayer Thin Films of Semiconductor Nanoparticles”
鳥本 司(結晶材料工学専攻)
「SiC溶液成長過程における転位挙動解析」
“Analysis of Dislocation Behaviors in SiC Solution Growth”
宇治原 徹(結晶材料工学専攻)

3.プロセス知略
  「スラリー高濃縮システム及びスラリー中粒子集合状態評価装置の開発」
“Development of a High Performance Thickening System and Evaluation Techniques for Characterization of Particles Assembling State in Slurries”
椿 淳一郎(物質制御工学専攻)
「光機能性ソフトマテリアルの創製」
“Creation of Photofunctional Soft Materials”
関 隆広(物質制御工学専攻)
「バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発」
“Development of Environment-Friendly Nano-materials by Biomimetic Processing”
高井 治(マテリアル理工学専攻)
「ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発」
“Development of Functional Nano-materials by Solution Plasma Processing”
齋藤 永宏(エコトピア科学研究所)

4.安全性知略
  「組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化」
“Materials Development and Improvement by Control of Micro-Structure and Morphology”
金武直幸(マテリアル理工学専攻)
「インテリジェントナノ材料としての新規機能性核酸の構築」
“Creation of New Functional Oligonucleotides as Intelligent Nano-materials”
浅沼浩之(物質制御工学専攻)
「セラミックスを基材にした生体組織修復材料の創製」
“Development of Novel Ceramic Biomaterials for Medical Applications”
大槻主税(結晶材料工学専攻)
「DP鋼の内部損傷発展に及ぼす微細組織の影響」
“Influence of Microstructure of Dual Phase Steel on Micro Void Behavior”
石川孝司(マテリアル理工学専攻)、湯川伸樹(MBTセンター)
「Al鋳造合金FSW継手の疲労特性」
“Fatigue Properties of Cast Aluminum Alloy Joints by FSW Welding”
阿部英嗣(MBTセンター)、湯川伸樹(MBTセンター)

 以下、本年度の研究成果の概要について述べる。

1.物質知略

 本分野については、物質創成と先進評価の新たな発展を狙い、バックキャスト視点に立って高性能代替材料、希少元素代替材料、元素戦略などに寄与する新たな物質の構造・特性や物質創製の基本原理・技術指針等を蓄積している。
 本年度は、金属材料の表面処理に関する研究、先端ナノ材料評価のための先進電子顕微鏡の開発、超高圧超高温下での新材料・新結晶の創製などに関する研究を重点的に行った。

 「金属材料の表面処理に関する研究」(興戸グループ) については、環境負荷の少ない溶液を用いて種々の「大きさとかたち」を作り出し、「機能」を表面に与えるプロセスについて研究を展開し、@Ti合金へのアパタイト被覆,酸化物被覆による生体親和性表面処理、AMg合金の陽極酸化等の耐食性表面処理、BCuナノメタル微粒子の液相合成、C「めっき」による機能部材の作製、等について多くの成果を得た。Aの研究は,平成22年度から始まる「知の拠点プロジェクト(愛知県)」の研究テーマとして,他の金属材料の新規加工プロセスを開発している研究者らと連携した展開を図った.

 「先端ナノ材料評価のための先進電子顕微鏡の開発」(田中グループ) については、物質知略部門の研究活動の一環として、半導体、非晶質、炭素ナノチューブ、準結晶、酸化物および光触媒など、産業界からも注目をされている先端材料の局所原子構造と電子構造を、高性能電子顕微鏡を使って解明することを目的にしている。本年度は、@収差補正TEM を用いた3C-SiC/Si(100)界面の3 次元原子配列構造解析、ACBED法を用いた半導体格子歪み分布自動解析法の開発など、多くの研究を実施、多くの成果を得た。特に、@の研究については、立方晶シリコンカーバイド(3C-SiC)はSi 基板上にヘテロエピタキシャル成長させることが可能であるが、その界面の原子配列は未だ解明されていないため、本研究では、対物レンズ収差を補正した透過型電子顕微鏡法(収差補正TEM)を用いて3C-SiC/Si(100)界面の原子配列の観察を行い、その結果、界面にはバルクとは異なる周期構造が観察された。この結果を基にして、界面の三次元原子配列を解明することに成功した。すなわち、本研究では収差補正TEM を用いて3C-SiC/Si(100)界面を観察することによって、バルクとは異なる周期構造が界面に形成されていることを見出した。また、異なる2 方向からの観察結果を基にして、界面の三次元構造モデルを構築した。今後は第一原理計算によって、更なる構造の精密化、及び界面エネルギーの評価を行う予定である。なお、本研究で得られた成果はSi 基板上に3C-SiC を結晶成長させる上で重要な知見であり、界面欠陥生成の原因解明に役立つと考えられる。

 「超高圧超高温下での新材料・新結晶の創製」(長谷川グループ) については、高圧高温密閉空間が容易に得られギガパスカル領域の超高圧と数千度の超高温という熱力学条件が容易にかつ同時に達成され、新しい物質合成場を我々に提供してくれるDAC(ダイヤモンド・アンビル・セル)を利用して、超高圧下での様々な無機物質の新物質と新結晶の創製の研究を推進し、@ガス分子充填ゼオライトの創製、A遷移金属燐化物の高圧合成と圧縮挙動、BMg2X(X=Si,Sn)の高圧高温相図と高圧合成などについて、多くの新たな知見を得た。すなわち、高圧高温密閉空間が容易に得られギガパスカル領域の超高圧と数千度の超高温という熱力学条件が容易にかつ同時に達成され新しい物質合成場を我々に提供してくれるDACとマルチアンビル型大型プレス装置を利用して、特に、ゼオライト、遷移金属燐化物、マグネシウム化合物を中心に、様々な無機物質の高圧合成と相安定性および特性の解明に成功した.

▼主な研究成果の発表

1) 「 SUS304ステンレス鋼のすきま腐食割れに及ぼす付着塩分量と負荷応力の影響」, 梶川俊二, 磯部保明, 興戸正純, 日本金属学会誌, 74(2), 119-126 (2010)
2) “A Comparative Electrochemical Study of AZ31 and AZ91 Magnesium Alloy”, S. A. Salman, R. Ichino and M. Okido, International Journal of Corrosion, Vol.2010, Article ID 412129 (2010)
3) 「マグネシウム合金の湿式表面処理と耐食性評価」, 興戸正純, 軽金属, 60(3), 142-149 (2010)
4) “Effect of Anodizing Potential on the Surface Morphology and Corrosion Property of AZ31 Magnesium Alloy”, S. A. Salman, R. Mori, R. Ichino and M. Okido, Materials Transactions, 51(6), 1109-1113 (2010)
5) 「SUS304ステンレス鋼のすきま内外における腐食に及ぼす塩種と乾湿条件の影響」, 梶川俊二, 磯部保明, 興戸正純, 日本金属学会誌, 74(8), 493-500 (2010)
6) “Effect of Reaction Driving Force on Copper Nanoparticle Preparation by Aqueous Solution Reduction Method”, Q. Liu, D. Zhou, K. Nishio, R. Ichino and M. Okido, Materials Transactions, 51(8), 1386-1389 (2010)
7) “Annealing Effects on a High-K Lanthanum Oxide Film on Si (001) Analyzed by Aberration-corrected Transmission Electron Microscopy/Scanning Transmission Electron Microscopy and Electron Energy Loss Spectroscopy”, S. Inamoto, J. Yamasaki, E. Okunishi, K. Kakushima, H. Iwai and N. Tanaka, J. Applied Physics, Vol.107, 124510 (2010)
8) “Submicron Rectangular Hollow Tube Crystals of Rutile-type GeO2”, K. Niwa, H. Ikegaya, M. Hasegawa, T. Ohsuna and T.Yagi, J. Crystal Growth, Vol.312, 1731-1735 (2010)


2.エネルギー知略

 本分野では、バックキャスト視点に立って、将来の資源・環境と深く関わるエネルギー問題の解決やナノテクノロジーを活用したエネルギー・環境技術などに寄与する材料テクノロジーの革新的発展を狙い、エネルギーに関連する新たな物質・材料・プロセスの創製に関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。
 本年度は、高効率熱電変換材料・デバイスの開発、環境にやさしい化学プロセスとクリーン自動車のための固体触媒、交互吸着法による半導体ナノ結晶積層薄膜の作製と光電気化学特性制御、SiC溶液成長過程における転位挙動解析などの研究を重点的に実施した。

 「高効率熱電変換材料・デバイスの開発」(河本グループ) については、日本オリジナルの高効率バルク熱電変換材料の開発を行い、バックキャストテクノロジーの観点からこれをデバイス化して廃熱回収・電力変換への応用の道筋をつけることを目標とし、最近発見した無害かつ非希少元素から構成されるSrTiO3を利用したバルク熱電変換材料を開発し、研究を推進している。量子ナノ構造バルク材料の熱電特性シミュレーションに基づいて、ナノ構造化の有効性を一部実験的に検証した。また、新しい高効率材料として硫化チタン系ミスフィット層状化合物を提案して熱電変換応用の可能性を検討した。さらに、太陽電池/熱電ハイブリッドデバイスを試作して、太陽光・熱同時エネルギー変換の可能性を検討した。特に、SrTiO3(STO)のナノ構造制御による高性能化、TiS2系ミスフィット層状化合物の性能向上、太陽電池/熱電ハイブリッド発電デバイスの構築と評価、などに関して、新たな知見を得た。
 本研究分野に関連して、本年度、河本・太田らは第32回応用物理学会論文賞(応用物理学会優秀論文賞)を受賞した。

  論文題目“Thermal Stability of Giant Thermoelectric Seebeck Coefficient for SrTiO3/SrTi0.8Nb0.2O3 Superlattices at 900 K”
  著  者Kyu Hyoung Lee, Yoriko Mune, Hiromichi Ohta, and Kunihito Koumoto
  掲 載 誌Appl. Phys. Express, 1, 015007 (2008)

 「環境にやさしい化学プロセスとクリーン自動車のための固体触媒」(薩摩グループ) については、持続可能な社会の構築に向けた環境に優しい科学技術の確立を狙い、「環境に優しい化学プロセス」と「クリーン排ガス自動車」をターゲットとし、これらを実現するための固体触媒開発とその基礎研究を推進した。本年度は銀および金のナノクラスター/ナノ粒子を用いて、ディーゼルパーティキュレート燃焼触媒および選択水素化触媒の開発を行い、銀-酸化スズ混合触媒によるカーボン燃焼、および、アルミナ担持金・銀触媒を用いた芳香族ニトロ化合物の選択的水素化について、多くの知見を得た。今後について、中国のレアアース輸出規制に伴い、レアアースの使用量削減や代替材料の開発が急務となっており、自動車触媒においては酸素吸蔵材料としてセリアが使用され、セリア使用量の削減あるいは代替材料の開発が急務となっているため、来年度はセリア使用量削減を目的として、セリアの酸素吸蔵能の解析、貴金属−セリア相互作用を利用した触媒性能向上、およびセリアの基本的な触媒特性の解明について研究を推進する。

 「交互吸着法による半導体ナノ結晶積層薄膜の作製と光電気化学特性制御」(鳥本グループ) については、この交互吸着法を用いて、静電的な相互作用により、半導体ナノ粒子を一層ずつ配列制御しながら積層し、膜内部に、これまでの材料にはないナノメートルレベルでのエネルギー傾斜構造を構築し、これによる新規な光電気化学的特性の発現と、その光電変換素子への応用を試みた。
その結果、@積層構造に依存して変化するCdSナノ粒子集積薄膜の光電気化学特性について、粒径の異なる半導体ナノ粒子を配列させることで、効率的な光電変換を達成できることが明らかにし、ACu2ZnSnS4ナノ粒子の液相化学合成と太陽電池への応用について、高品質な粒子を作製し、さらにそれらの物質をうまく配列(組織化)させ、電子的・エネルギー的な相互作用を最大限に引き出すことができれば、材料の特性の向上や新しい機能の発現が可能となることを見出した。

 「SiC溶液成長過程における転位挙動解析」(宇治原グループ) については、本年度は、溶液法により6H-SiC、4H-SiCの成長を行い、成長過程における欠陥低減メカニズムをシンクロトロントポグラフィー法によって調査し、基底面転位が溶液法においてはほとんど形成されないこと、さらに、ステップフロー成長がらせん転位消滅に大きな役割を果たしていることを明らかにし、より高品質な結晶を得るための指針を得た。本年度の成果は、溶液成長における欠陥抑制効果をダイレクトに証明するものであり、その意義は大きい。また、さらなる検証は必要であるものの、そのメカニズムも概要はつかめてきた。今後は、積極的に、オフ角制御を実施することで、さらなる低欠陥化が可能であると考えている。

▼主な研究成果の発表

9) “Enhancement of Thermoelectric Performance in Rare Earth-doped Sr3Ti2O7 by Symmetry Restoration of TiO6 Octahedra”, Y. F. Wang, K. H. Lee, H. Hyuga, H. Kita, H. Ohta and K. Koumoto, J. Electroceram., 24, 76-82 (2010)
10) “Effects of Mesoporous Silica Addition on Thermoelectric Properties of Nb-doped SrTiO3”, N. Wang, L. Han, H. C. He, Y. S. Ba and K. Koumoto, J. Alloys Compd., 497, 308-311 (2010)
11) “A Single Crystalline Strontium Titanate Thin Film Transistor”, K. Uchida, A. Yoshikawa, K. Koumoto, T. Kato, Y. Ikuhara and H. Ohta, J. Appl. Phys., 107, 096103 (2010)
12) “Simulation of Thermoelectric Performance of Bulk SrTiO3 with Two-dimensional Electron Gas Grain Boundaries”, R. Z. Zhang, C. L. Wang, J. C. Li and K. Koumoto, J. Am. Ceram. Soc., 93, 1677-1681 (2010)
13) “Experimental Characterization of the Electronic Structure of Anatase TiO2: Thermopower Modulation”, Y. Nagao, A. Yoshikawa, K. Koumoto, T. Kato, Y. Ikuhara and H. Ohta, Appl. Phys. Lett., 97, 172112 (2010)
14) “Oxide Thermoelectric Materials: A Nanostructuring Approach”, K. Koumoto, Y. F. Wang, R. Z. Zhang, A. Kosuga and R. Funahashi, Annu. Rev. Mater. Res. 40, 363-394 (2010)
15) “Nano-Micro Patterning at Organic/Inorganic Interfaces”, K. Koumoto, Y. Masuda, Y. F. Gao, P. X. Zhu, N. Saito, Encyclopedia of Nanoscience and Nanotechnology, Am. Sci. Publisher, USA (2010)
16) “Study of Active Sites and Mechanism for Soot Oxidation by Silver-loaded Ceria Ccatalyst”, K. Shimizu, H. Kawachi, and A. Satsuma, Appl. Catal., B, 96 , 169-175 (2010)
17) “Design of Active Centers for Bisphenol-A Synthesis by Organic-inorganic Dual Modification of Heteropolyacid”, K. Shimizu, S. Kontani, S. Yamada, G. Takahashi, T. Nihisyama and A. Satsuma, Appl. Catal. A:Gen. 380, 33-39 (2010)
18) “Effect of Pt and Ba Content on NOx Storage and Reduction over Pt/Ba/Al2O3”, Y. Saito, K. Shimizu, T. Nobukawa and A. Satsuma, Top. Catal., 53, 584-590 (2010)
19) “Density Functional Theory Calculation on the Promotion Effect of H2 in the Selective Catalytic Reduction of NOx over Ag-MFI Zeolite”, K. Sawabe, T. Hiro, K. Shimizu and A. Satsuma, Catal. Today, 153 (3-4), 90-94 (2010)
20) “Hydrogenation of Pyrene Using Pd Catalysts Supported on Tungstated Metal Oxides”, Q. Lin, K. Shimizu and A. Satsuma, Appl. Catal. A:Gen. 387, 166-172 (2010)
21) “Size Control and Immobilization of Gold Nanoparticles Stabilized in an Ionic Liquid on Glass Substrates for Plasmonic Applications”, T. Kameyama, Y. Ohno, T. Kurimoto, K. Okazaki, T. Uematsu, S. Kuwabata and T. Torimoto, Phys. Chem. Chem. Phys., 12, 1804-1811 (2010)
22) “Remarkable Photoluminescence Enhancement of ZnS-AgInS2 Solid Solution Nanoparticles by Postsynthesis Treatment”, T. Torimoto, S. Ogawa, T. Adachi, T. Kameyama, K.Okazaki, T. Shibayama, A. Kudo and S. Kuwabata, Chem. Commun., 46, 2082-2084 (2010)
23) “Studies on Reaction Conditions for Size-selective Photoetching of Cadmium Telluride Nanocrystals”, T. Uematsu, T. Torimoto, S. Kuwabata, Electrochemistry, 78, 170-174 (2010)
24) “Immobilization of ZnS-AgInS2 Solid Solution Nanoparticles on ZnO Rod Array Electrodes and Their Photoresponse with Visible Light Irradiation”, T. Sasamura, K. Okazaki, R. Tsunoda, A. Kudo, S. Kuwabata and T. Torimoto, Chem. Lett., 39, 619-621 (2010)
25) “Palladium Nanoparticles in Ionic Liquid by Sputter Deposition as Catalysts for Suzuki-Miyaura Coupling in Water”, Y. Oda, K. Hirano, K. Yoshii, S. Kuwabata, T. Torimoto, and M. Miura*, Chem. Lett., 39, 1069-1071 (2010)
26) “Catalytic Activity and Regeneration Property of a Pd Nanoparticle Encapsulated in a Hollow Porous Carbon Sphere for Aerobic Alcohol Oxidation”, T. Harada, S. Ikeda, F. Hashimoto, T. Sakata, K. Ikeue, T. Torimoto and M. Matsumura, Langmuir, 26(22), 17720-17725 (2010)
27) “TEM Analysis of SiC Crystal Grown on (001) 3C-SiC CVD Substrate by Solution Growth”, K. Morimoto, R. Tanaka, K. Seki, T. Tokunaga, T. Ujihara, K. Sasaki, Y. Takeda and K. Kuroda, Inter. J. Advanced Microscopy and Theoretical Calculations Letters 2, 242-243 (2010)
28) “Effects of Defects and Local Thickness Modulation on Spin-polarization in Photocathodes Based on GaAs/GaAsP Strained Superlattices”, X. G. Jin, Y. Maeda, T. Sasaki, S. Arai, Y. Ishida, M. Kanda, S. Fuchi, T. Ujihara, T. Saka and Y. Takeda, J. Appl. Phys. 108, #094509 (2010)
29) “High-quality and Large-area 3C-SiC Growth on 6H-SiC(0 0 0 1) Seed Crystal with Top-seeded Solution Method”, T. Ujihara, K. Seki, R. Tanaka, S. Kozawa, Alexander, K. Morimoto, K. Sasaki, Y. Takeda, J. Cryst. Growth, in press, Available online, 29, October (2010)
30) “Increase of Spectral Width of Stacked InAs Quantum Dots on GaAs by Controlling Spacer Layer Thickness”, K. Tani, S. Fuchi, R. Mizutani, T. Ujihara, Y. Takeda, J. Cryst. Growth, in press, Available online, 23, October (2010)


3.プロセス知略

 本分野では、バックキャスト視点に立って、エネルギー・環境技術などに寄与する材料テクノロジーの発展を狙い、環境にやさしいものづくりに関連する新たな材料テクノロジーや材料創製プロセスに関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。
 本年度は、スラリー高濃縮システム及びスラリー中粒子集合状態評価装置の開発、光機能性ソフトマテリアルの創製、バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発、ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発などの研究を重点的に実施した。

 「新規スラリー調製・評価技術によるスラリープロセスの高効率化」(椿 グループ) については、様々な産業分野において非常に重要な微粒子分散制御に関して、新たなケークレス高濃縮ろ過技術の開発、および、ナノ粒子スラリーの粒子集合状態評価技術の開発を推進し、多くの知見を得た。
@ケークレス高濃縮濾過システムの開発について、「粒子を凝集させて濾過する」という既存の濾過技術及び開発研究のコンセプトにとらわれず、高粒子濃度までスラリーを濃縮するためには「粒子が良く分散しており、高濃縮してもスラリーが流動性を保持している」ことが必要であるという考えに基づき、セラミックスフィルターに螺旋案内付き芯棒を挿入した高濃縮濾過システムDECAFFを開発した。昨年度までに、既存の濾過システムを上回る高濃縮が可能であることを実証したため、今年度は運転コストに直結する消費電力の測定、フィルターの選定、連続運転時の濾過速度の測定を行った。フィルター及びフィルターモジュールを商品化した。
Aナノ粒子スラリーの粒子集合状態評価技術の開発について、スラリープロセスにおいて、現状ではスラリー中粒子集合状態の評価法が十分には確立されていないため、試行錯誤で製品を作成し、製品評価を行ってはじめて最適条件が決定できる。製品性能にはスラリー中の粒子集合状態が決定的な影響を及ぼすため、適切な粒子集合状態評価手法が確立されれば、スラリー段階で目的とする製品性能を満足する最適条件が決定できる。そこで、粒子集合状態の評価手法として、主にミクロン領域の粒子スラリーでは静水圧測定法、ナノ領域の粒子スラリーでは浸透圧測定法を開発した。静水圧測定法に関してはHYSTAPシリーズとして商品化し、浸透圧測定に関しては評価原理を検証した。

 「光機能性ソフトマテリアルの創製」(関 グループ) について、光によるナノ材料構造制御と機能変換システムの構築を目指し、代表的なフォトクロミック分子であるアゾベンゼンを導入した各種高分子系を設計・合成し、界面組織化を組み入れた薄膜形成に基づいた光形態変化、光分子配向制御、光物質移動、ナノ構造制御を行い構造やその特性を評価した。こうした光照射に基づく操作は、使用目的や規格に合わせた材料プロセッシングに関する強力なツールとなりうるものであり、バックキャストテクノロジーの有力な方法論を提供するものと期待される。本年度は、特に、@単分子膜系のブロック共重合体ミクロ相分離配向制御、Aブロック共重合体薄膜のミクロ相分離構造の動的光制御、B液晶性物質の光物質移動と応用に関する新たな展開について、多くの知見を得た。
 また、本研究分野に関連して、本年度、関・永野らの論文が材料科学分野の最近10年間の最高被引用度論文に選定された。(Thomson Reuters 社のウェブサイト「Science Watch」)

  論文題目“Optical Alignment and Patterning of Nanoscale Microdomains in a Block Copolymer Thin Film”
  著  者Y. Morikawa, S. Nagano, K. Watanabe, T. Iyoda and T. Seki
  掲 載 誌Advanced Materials, 18 (7), 883-886 (2006)

 「バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発」(高井グループ) については、環境問題や資源枯渇問題などの解決への寄与を狙い、「生物の生み出す物質・構造・機能・プロセスなどを学び・理解し・洗練させることにより、新しい機能材料をデザインし・創製する「バイオミメティック材料プロセッシング」による環境調和型ナノ材料の創製を目的とし、研究を推進している。本年度は、「大気圧プラズマを用いた材料表面の高機能化」について、@大気圧プラズマジェットを用いた局所的はっ水表面の形成、A大気圧プラズマを用いた高分子材料への機能性薄膜の形成などについて多くの知見を得た。また、大気圧プラズマを用いて、高速な高分子処理に成功し、親水性モノマーの重合による持続的親水性の付与、および、グリップシートのはっ水化に成功した。

 「ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発」(斉藤グループ) については、環境調和型の材料プロセス設計に基づくナノ材料創製を狙い、ソリューションプラズマ(液中で生成する非平衡プラズマ)の反応場を利用したナノ粒子の合成、材料の表面改質、高速度処理を行い、新しい有機-無機ハイブリッドナノ材料合成プロセスに関する研究を推進している。本年度は、@ソリューションプラズマを用いた金ナノ材料合成とプロセスの大容量化、A高分子複合材料のためのソリューションプラズマによるカーボンナノチューブの表面改質、B赤外加熱CVD(化学気相蒸着)法によるCNB(カーボンナノチューブ)の合成と特性評価などの研究を進め、多くの新たな知見を得た。特に、@の研究については、ソリューションプラズマを用いて金ナノ粒子の合成を行い、さらにアミノ基修飾メソポーラスシリカに担持させることができた。また、ソリューションプラズマプロセスの大容量化に成功した。

▼主な研究成果の発表

31) “Development of a Novel High Performance Cake-less Filtration System”, T. Mori, H. Satone, T. Hirata and J. Tsubaki, Water Pollution X, 325-332, (2010)
32) 「碍子製造用杯土の可塑性最適化に関する研究」, 木村隆俊, 中後浩一郎, 仮屋 弘, 森 隆昌, 椿 淳一郎, 粉体工学会誌, 47 (8), 539-544 (2010)
33) 「分散剤の添加量が粒子沈降挙」に及ぼす影響」, 木口崇彦, 稲嶺育恵, 佐藤根大士, 森 隆昌, 椿 淳一郎, 粉体工学会誌, 47 (9), 616-622 (2010)
34) “Effects of Sintering Additives on Dispersion Properties of Al2O3 Slurry Containing Polyacrylic Acid Dispersant”, H. Ohtsuka, H. Mizutani, S. IIO, K. Asai, T. Kiguchi, H. Satone, T. Mori and J. Tsubaki, J. Euro. Ceram. Soc., 31, 517-522 (2011)
35) “Development of a Novel High Performance Filtration Ssystem -Optimization of Operating Conditions”, T. Katsuoka, H. Satone, T. Yamada, T. Mori and J. Tsubaki, Powder Technology, 207(1-3), 154-158 (2011)
36) “Interaction-induced Vertical Alignment of Silica Mesochannels Templated by a Discotic Lyotropic Liquid Crystal”, M. Hara, S. Nagano and T. Seki, J. Am. Chem. Soc., 132(39), 13654-13656 (2010)
37) “Precise Synthesis and Physicochemical Properties of High-Density, Polymer Brushes Designed with Poly (N-isopropylacrylamide)”, H. Suzuki, M. N. Huda, T. Seki, T.Kawamoto, H. Haga, K. Kawabata and Y. Takeoka, Macromolecules, 43(23), 9945-9956 (2010)
38) “Electron Spin Resonance Observation of Field-Induced Charge Carriers in Ultrathin-Film Transistors of Regioregular Poly(3-Hexylthiophene) with Controlled in-Plane Chain Orientation”, S. Watanabe, H. Tanaka, S. Kuroda, A. Toda, S. Nagano, T. Seki, A. Kimoto and J. Abe, Appl. Phys. Lett., 96, 173302 (2010)
39) “Photo-triggered Mass Migrating Motions in Liquid Crystalline Azobenzene Polymer Films with Systematically Varied Thermal Properties”, J. Isayama, S. Nagano and T. Seki, Macromolecules, 43(9), 4105-4112 (2010)
40) “Angle Independent Structural Color in Colloidal Amorphous Arrays”, M. Harun-Ur-Rashid, A. B. Imran, T. Seki, H. Nakamura and Y. Takeoka, Chem. Phys. Chem., 11, 579-583 (2010)
41) “Correlation of Cell Adhesive Behaviors on Super-hydrophobic, Super-hydrophilic and Micropatterned Super-hydrophobic/Super-hydrophilic Surfaces to Their Surface Chemistry”, T. Ishizaki, N. Saito and O. Takai, Langmuir, 26 (11), 8147-8154 (2010)
42) “All-Solid-State Reflectance-Type Electrochromic Devises Using Iridium Tin Oxide Film as Counter Electrode”, T. Niwa and O. Takai, Thin Solid Films, 518 (18), 5340-5344 (2010)
43) “Time-resolved Optical Emission Spectroscopy in Water Electrical Discharges”, C. Miron, M. A. Bratescu, N. Saito and O. Takai, Plasma Chemistry and Plasma Processing, 30 (5), 619-631 (2010)
44) “Oxygen Gas Barrier Properties of Hydrogenated Amorphous Carbon Thin Films Deposited with a Pulse-Biased Inductively Coupled Plasma Chemical Vapor Deposition Method”, S. Baek, T. Shirafuji, S. Cho, N. Saito and O. Takai, Japanese J. Appl. Phys., 49 (8), Part 2 Sp. Iss. SI (2010)
45) “Corrosion Resistance and Chemical Stability of Super-Hydrophobic Film Deposited on Magnesium Alloy AZ31 by Microwave Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition”, T. Ishizaki, J. Hieda, N. Saito, Na. Saito and O. Takai, Electrochemica Acta, 55(23), 7094-7101 (2010)
46) “Structure and Mechanical Properties of Diamond-Like Carbon Films Prepared from C2H2 and H2 Mixtures by Pulse Plasma Chemical Vapor Deposition”, S. Fujimoto, N. Ohtake, O. Takai, S. Fujimoto, H. Akasaka, T. Suzuki, N. Ohtake and O. Takai, Japanese Journal of Applied Physics, 49 (7), 075501 (2010)
47) “Attenuated Total Reflectance Spectroscopy of Coumarin Organosilane Molecules Adsorbed on a Fused Silica Surface”, M. A. Bratescu, N. Saito and O. Takai, Appl. Surf. Sci., 257(5), 1792-1799 (2010)
48) “Solution Plasma Process for Template Removal in Mesoporous Silica Synthesis”, P. Pootawang, N. Saito and O. Takai, Japanese Journal of Applied Physics, 49 (12), 126202 (2010)
49) “Estimation of Dehumidifying Performance of Solid Polymer Electrolytic Dehumidifier for Practical Application”, S. Sakuma, S. Yamauchi and O. Takai, Journal of Applied Electrochemistry, 40 (12), 2153-2160 (2010)
50) “Electrochemical, Optical and Electronic Properties of Iridium Tin Oxide Thin Film as Counter Electrode of Electrochromic Device”, T. Niwa and O. Takai, Japanese Journal of Applied Physics, 49 (10), 105802 (2010)


4.安全性知略

 本分野については、バックキャスト視点に立って、産業や社会における安心・安全性の向上に寄与する物質・材料・プロセスの創製に関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。v  本年度は、組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化、インテリジェントナノ材料としての新規機能性核酸の構築、セラミックスを基材にした生体組織修復材料の創製、DP鋼の内部損傷発展に及ぼす微細組織の影響、Al鋳造合金FSW継手の疲労特性、などの研究を重点的に実施した。

 「組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化」(金武グループ) については、金属材料および金属間化合物やセラミックの無機材料を対象に、@組織制御(結晶組織の制御)、A構造制御(異種材料の複合化)、B形態制御(ポーラス構造の制御)の観点から、各種の環境調和型材料の開発とそのための環境調和型プロセスの開発を目指している。@では金属材料の高度な結晶組織制御による新機能の発現、Aでは異種材料による複合構造を制御する複合材料の開発、Bではポーラス材料中の気孔形態を制御するプロセスの開発を目指した研究開発を進めている。本年度は、(1)金属材料の高機能化に関しては、当研究室で開発した「圧縮ねじり加工法」を用いて、マグネシウム合金の結晶粒微細化プロセスとCu/Cr複合金属の固化成形とCr粒子微細化について検討し、また、(2)複合材料に関して、圧縮ねじり成形法によるナノ粒子が微細・均一分散する複合材料の作製と、工業利用可能な安価なプロセス開発を目指して、溶融金属の反応浸透法を検討し、さらに、(3)ポーラス材料に関して、粉末プリカーサ法における発泡助剤の検討と、燃焼合成発泡したAl-Ti系ポーラス材料の圧縮変形特性を検討し、多くの有用な知見を得た。

 「インテリジェントナノ材料としての新規機能性核酸の構築」(浅沼グループ) については、バックキャスト的視点から、天然の核酸(DNA, RNA)を凌駕し、将来必要とされる機能を備えたインテリジェントナノ材料としての新たな機能性核酸の構築を推進している。本年度は、@DNAグルーの開発、Aインスレーター塩基対の開発に関する研究を主に行った。@DNAグルーの開発について、カチオン性色素をDNAの末端に導入することによりDNA二重鎖を結合させる“DNAグルー”の開発を行い、これまでにカチオン性色素(p-メチルスチルバゾール)による“疑似塩基対”がDNA二重鎖を大幅に安定化することを見出し、カチオン性色素を用いたDNAグルーの開発に成功した。今後はこの疑似塩基対を利用したナノ構造体の調製を行う。Aインスレーター塩基対の開発については、蛍光色素の高輝度化を目指したインスレーター塩基対の開発を行い、インスレーター塩基対を利用した電子移動の抑制に成功した。
 本分野に関連して、本年度、浅沼・樫田らの研究論文が、@Angewandte Chemie International Edition誌のHot Paper、および、AChemistry A European JournalのVery Important PaperとInside coverに選定された。

  @論文題目“Control of the Chirality and Helicity of Oligomers of Serinol Nucleic Acid (SNA) by Sequence Design”
  著  者H. Kashida, K. Murayama, T. Toda and H. Asanuma
  掲載雑誌Angewandte Chemie International Edition, DOI: 10.1002/anie.201006498
 
  A論文題目“A Cationic Dye Triplet as a Unique “Glue” That Can Connect Fully Matched Termini of DNA Duplexes”
  著  者H. Kashida, T. Hayashi, T. Fujii and H. Asanuma
  掲載雑誌Chemistry - A European Journal、DOI: 10.1002/chem.201003059

 「セラミックスを基材にした生体組織修復材料の創製」(大槻グループ) については、高齢化社会や将来の医療への寄与を狙い、バックキャスト視点に立って、将来、高い生物学的親和性や安全性およびより高い治療効果を要求される生体材料に必須の結晶材料と生体分子の相互作用などを理解するための研究を推進し、@水和ゲルを反応場に用いて形態を制御した生体関連鉱物(バイオミネラル)を合成するプロセスの開発、A材料表面が生体環境において示す挙動の解明、B鉄系化合物に骨伝導性を付与する技術の開発について、多くの知見を得た。特に、新しい骨修復材材料設計の展開を図るための化合物として鉄系酸化物に着目して、種々の鉄系酸化物をSBFやSBFのイオン濃度を高めた水溶液(1.5SBF)に浸漬し、表面での骨類似アパタイト層の形成を調べた結果、水和した酸化鉄も、周囲の液の骨類似アパタイトに対する過飽和度が上昇すると、不均一核形成のサイトとして働き得ることを見出した。この結果は、鉄系材料を用いた骨修復材料の新規な設計指針を与えると期待できる。

 「DP鋼の内部損傷発展に及ぼす微細組織の影響」(石川グループ) については、自動車軽量化,安全衝突性向上のための高張力鋼板の開発に関連して、硬いマルテンサイト組織と軟質なフェライト組織を有する高張力鋼板の一種であるDP鋼(Dual Phase)の鋼板の成形限界を規定する破壊現象が不明であるため、材料の構成因子が延性破壊の起点となるミクロボイドの生成に与える影響などの解明に関する研究を推進した。本年度は、マルテンサイト相分率の異なるDP鋼に対し,切欠付引張試験を行い、内部損傷発展におよぼす相分率の影響について調査した結果,(1)相分率に偏りがある場合,それぞれの主体組織にひずみが集中し,粒界のみならず粒内からのボイド生成が著しく起きるためマクロ的な局部延性は小さくなること、(2)相分率が比較的同程度で硬度分布のばらつきが小さい場合,ひずみが分散し比較的均一な変形を起こすため,ボイド生成が粒界のみに抑制され延性が向上することなど、有用な知見を得た。

 「Al鋳造合金FSW継手の疲労特性」(阿部グループ) については、アルミニウム鋳造材は自動車軽量化用の部品を中心として広く利用されているが、粗大組織、偏析、鋳造欠陥が内在するため、疲労特性には多く問題を有している。鋳造材の溶接接合は、組織再構築による鋳造欠陥の消滅や微細組織化といった疲労強度に対して正の効果が期待できるが、応力集中部や溶接欠陥の形成,残留応力など、負の影響も予想される。アルミニウム鋳造材継手の疲労強度は、鋳造欠陥の他、溶接部の応力集中や残留応力、組織変化が複雑に関連すると考えられる。そこで、本研究では、アルミニウム鋳造材とその溶接・接合継手の疲労き裂進展試験、四点曲げ疲労試験を行い、母材と継手の疲労特性を比較するとともに、疲労特性に影響する因子の検討を行い、有益な知見をえた。


▼主な研究成果の発表

51) “Effect of Elemental Powder Blending Ratio on Combustion Foaming Behavior of Porous Al-Ti Intermetallics and Al3Ti/Al Composite”, M. Kobashi, N. Inoguchi and N. Kanetake, Intermetallics, 18(5), 1039-1045(2010)
52) “Combustion Synthesis of Porous TiC/Ti Composite by a Self-Propagating Mode”, M. Kobashi, D. Ichioka and N. Kanetake, Materials, 3(7), 3939-3947(2010)
53) “A Study on the Combustion Synthesis of Titanium Aluminide in the Self-Propagating Mode”, M. Adeli, S. H. Seyedein, M. R. Aboutalebi, M. Kobashi and N. Kanetake, J Alloys and Compounds, 497, 100-104(2010)
54) “Visualization and Quantification of Severe Internal Deformation on Compressive Torsion Process”, Y. Kume, M. Motohashi, M. Kobashi and N. Kanetake, Materials Science Forum, 654-656,1247-1250 (2010)
55) “Refinement of Grains and Second Phases in Aluminum Alloys by Compressive Torsion Processing”, Y. Kume, M. Kobashi and N. Kanetake, Steel Research International, 81(9), 270-273 (2010)
56) “Unexpectedly Stable Artificial Duplex from Flexible Acyclic Threoninol”, H. Asanuma, T. Toda, K. Murayama,X. G. Liang and H. Kashida, J. Am. Chem. Soc., 132, 14702-14703 (2010)
57) “Insulator Base Pairs for Lighting-up Perylenediimide in a DNA Duplex”, H. Kashida, K. Sekiguchi, H. Asanuma, Chem. Eur. J., 16, 11554-11557 (2010)
58) “Coherent Quenching of a Fluorophore for the Design of a Highly Sensitive In-Stem Molecular Beacon”, Y. Hara,T. Fujii, H. Kashida,K. Sekiguchi,X. G. Liang,K. Niwa,T. Takase,Y. Yoshida, H. Asanuma, Angew. Chem. Int. Ed., 49, 5502-5506 (2010)
59) “Accumulation of Fluorophores into DNA Duplexes to Mimic the Properties of Quantum Dots”, H. Kashida, K. Sekiguchi, X. G. Liang, H. Asanuma, J. Am. Chem. Soc., 132, 6223-6230 (2010)
60) “Control of the Chirality and Helicity of Oligomers of Serinol Nucleic Acid (SNA) by Sequence Design”, H. Kashida, K. Murayama, T. Toda, H. Asanuma, Angew. Chem. Int. Ed., 50, 1285-1288 (2011)
61) “Sensing of Protein Adsorption with a Porous Bulk Composite Comprising Silver Nanoparticles Deposited on Hydroxyapatite”, C. Ohtsuki, Y. Ichikawa, H. Shibata, G. Kawachi, T. Torimoto and S. Ogata, J. Materials Science: Materials in Medicine, 21 [4], 1225-1232 (2010), (doi: 10.1007/s10856-009-3982-z)
62) “Hydroxyapatite Formation on Porous Ceramics of Alpha-Tricalcium Phosphate in a Simulated Body Fluid”, T. Uchino, K. Yamaguchi, I. Suzuki, M. Kamitakahara, M. Otsuka and C. Ohtsuki, J. Materials Science, Materials in Medicine, 21 [6], 1921-1926 (2010), (doi: 10.1007/s10856-010-4042-4)
63) “Formation of Octacalcium Phosphate with Incorporated Succinic Acid Through Gel-Mediated Processing”, T. Yokoi, H. Kato, M. Kamitakahara, M. Kawashita and C. Ohtsuki, J. Ceramic Society of Japan,118 [6], 491-497 (2010)
64) “Crystallization of Calcium Phosphate in Polyacrylamide Hydrogels Containing Phosphate Ions”, T. Yokoi, M. Kawashita, K. Kikuta and C. Ohtsuki, J. Crystal Growth, 312, 2376-2382 (2010), (doi:10.1016/j.jcrysgro.2010.05.028)
65) “Modification of Polyglutamic Acid with Silanol Groups and Calcium Salts to Induce Calcification in a Simulated Body Fluid”, M. Y. Koh, T. Miyazaki and C. Ohtsuki, J. Biomaterials Applications, 25 [6], 581-594 (2011)
66) “Influences of Sheared Surface Properties and Induced Strain on Hole Expansion Limit of Steel Sheet”, Y. Yoshida, T. Ishiguro, N. Yukawa, T. Ishikawa and Z. G. Wang, Steel Research International, 81(9), 670-673 (2010)
67) “Influence of Slide Motion on Dimensional Accuracy in Cold Backward Extrusion by Using Servo Press”, T. Ishiguro, M. Yoshimura, Y. Yoshida, N. Yukawa and T. Ishikawa, Steel Research International, 81(9), 410-413 (2010)
68) “Cold Forge Bonding of Steel and Aluminum Alloy”, T. Ishikawa, Y. Yoshida, N. Yukawa, M. Kamiyama, H. Ogitani and T. Suganuma, Steel Research International, 81(9), 322-325 (2010)
69) “Prevention of Sheet Perforation in Universal Gap Rolling”, M. Kobayashi , T. Tsuchihashi, Y. Morimoto and T. Ishikawa, Steel Research International, 81(9), 126-129 (2010)
70) 「Dual Phase鋼板の内部損傷発展に及ぼす微細組織の影響」, 石黒太浩, 吉田佳典, 湯川伸樹, 石川孝司、吉田博司、藤田展弘、鉄と鋼、97(3),136-142 (2011)
71) 「鋳造アルミニウム合金のFSW継手およびMIG溶接継手の疲労強度特性」, 田川哲哉, 田原和憲, 阿部英嗣, 桂木陽平, 篠田 剛, 南 二三吉, 溶接学会論文集, 28(1), 149-157 (2010)