最近の知見・成果(H23年度)


【研究活動の概要】
 本センターでは、太陽エネルギー社会の構築に貢献するため、21世紀COE「自然に学ぶ材料プロセシングの創成」および第I期知的クラスター創成事業「環境にやさしいナノテクを利用したものづくり」の成果を継承・発展させるとともに、第II期知的クラスター創成事業および愛知県「知の拠点」構想と連動し、環境と人類の調和に向けたバックキャスト研究開発理念のもと、環境にやさしい材料テクノロジーの研究を進化・発展させ、先導的部材開発を実現する産学連携研究教育拠点を形成する。また、「バックキャスト」理念を備え、ものづくりや太陽エネルギー社会の構築をリードする若手研究者等の人材育成を行う。
 本年度は、センター創設の4年目として、本センターの基盤確立に向けた活動を重点的に実施することとし、太陽エネルギー社会構築のための材料テクノロジーへの新展開を図り、下記に述べる研究活動、教育活動、拠点形成の重点化推進を図った。
 研究活動に関し、4基幹グループと産学連携推進グループによる一体的な研究推進、材料テクノロジーに関する共同研究等の連携研究の推進、競争的研究資金獲得やプロジェクト研究の提案などを行った。また、知的クラスター創生事業の実施や愛知県知の拠点等を通した地域の産業振興への貢献に注力した。

(1)4基幹グループと1産学連携推進グループによる一体的な研究推進
 バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術の発展・確立を目差し、研究対象を重点化し、研究グループ体制(物質知略、エネルギー知略、プロセス知略、安全性知略の4基幹グループ、および、産学連携推進グループによる効率的・一体的な推進を狙った。

 研究成果の内容については後述するが、本年度は、本センターのメンバーの成果に限ると、投稿論文168報、図書・著書23報、発表・講演699件(内、国内会議:418件、国際会議:281件)、招待講演82件、新聞報道9件、テレビ放映5件、特許出願・公開・取得等6件、主な外部資金獲得59件、受賞31件などの成果が得られた。

 
 また、本センター関連専攻の大学院学生・ポスドク研究員・助教が受賞した優秀論文発表賞等の受賞は45件であった。
 
(2)連携研究の推進については、産学連携推進グループが中心となり、共同研究等の効率的な方法を試行し、民間企業等とのマッチング・共同研究を実施した。

(3)競争的研究資金獲得については、拠点形成補助等に関するプログラム等への応募を検討・実施した。

(4)「グリーンビークル材料研究開発拠点」の活動に関して、低炭素化社会および人との調和を実現する未来自動車(グリーンビークル)に関する拠点建築、材料研究の組織的な実施、シンポジウム開催等に協力した。


【研究成果の概要】
 ものづくり産業やグリーンビークル社会における今後の課題のソルーションとして、環境に優しい材料技術を実現するために必要な知的基盤である「バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術」の確立が必要である。この視点の追求により、低環境負荷プロセスの開発、高性能代替材料の開発、省エネを実現する材料の先導的研究技術開発を進めることができる。
 本年度は、バックキャスト視点に基づく材料テクノロジー技術の発展・確立を目差し、研究対象を重点化し、研究グループ体制(物質知略、エネルギー知略、プロセス知略、安全性知略の4基幹グループ、および、産学連携推進グループ)による効率的・一体的な推進を狙った。なお、研究対象は、鉄鋼・金属、高分子、セラミックス、生体材料などの材料全般で、従来枠に囚われることなく、環境と人類の調和に向けた知略のもとで最先端の研究開発を進めた。

1.物質知略
  「電解プロセスによる表面改質」
“Surface Modification of Light Metals by Electrolysis”
興戸正純(マテリアル理工学専攻)
「先端ナノ材料評価のための先進電子顕微鏡の開発」
“Development of advanced electron microscopy for technological nano-materials”
田中信夫(エコトピア科学研究所)
「不揮発性電子材料・デバイスの創製」
“Creation of Nonvolatile Electronic Materials and Devices”
浅野秀文(結晶材料工学専攻)
「超高圧超高温下での新材料・新結晶の創製」
“Synthesis and Crystal Growth of New Materials in High Pressure and Temperature”
長谷川 正(マテリアル理工学専攻)

2.エネルギー知略
  「グリーン有機合成のための新規酸化セリウム酸―塩基共同触媒の開発」
“Development of a novel acid-base cooperative catalysis of cerium oxide for green organic syntheses”
薩摩 篤(物質制御工学専攻)
「高効率熱電変換材料・デバイスの開発」
“Development of High-Efficiency Thermoelectric Materials and Devices”
河本邦仁(化学・生物工学専攻)
「表面プラズモンを利用する半導体ナノ粒子光触媒の高活性化」
“Surface-Plasmon-Enhanced Photocatalytic Activity of Semiconductor Nanoparticles”
鳥本 司(結晶材料工学専攻)
「SiC溶液成長における欠陥変換 〜超高品質に向けて〜」
“Defect conversion in SiC solution growth - Toward ultra-high quality -”
宇治原 徹(マテリアル理工学専攻)

3.プロセス知略
  「スラリー高濃縮システム及びスラリー中粒子集合状態評価装置の開発」
“Development of a high performance thickening system and evaluation techniques for characterization of particles assembling state in slurries”
椿 淳一郎(物質制御工学専攻)
「光機能性ソフトマテリアルの創製」
“Creation of Photofunctional Soft Materials”
関 隆広(物質制御工学専攻)
「バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発」
“Development of Environment-friendly Nano-materials by Biomimetic Processing”
高井 治(マテリアル理工学専攻)
「ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発」
“Development of Functional Nano-materials by Solution Plasma Processing”
齋藤 永宏(グリーンモビリティ連携研究所)

4.安全性知略
  「組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化」
“Materials Development and Improvement by Control of Micro-Structure and Morphology”
金武直幸(マテリアル理工学専攻)
「欠失検出型高感度蛍光プローブの設計」
“Design of highly sensitive fluorescence probe that can detect deletion mutant”
浅沼浩之(物質制御工学専攻)
「セラミックスを基材にした生体組織修復材料の創製」
“Development of Novel Ceramic Biomaterials for Tissue Reconstruction”
大槻主税(結晶材料工学専攻)
「サーボプレスを用いた荒地逐次鍛造システムの開発」
“Development of incremental forging for preform of connecting rod”
石川孝司(マテリアル理工学専攻)、湯川伸樹(MBTセンター)
「冷間鍛造用金型の疲労特性」
“Fatigue Properties of Cold Forging Dies”
阿部英嗣(MBTセンター)、湯川伸樹(MBTセンター)

 以下、本年度の研究成果の概要について述べる。

1.物質知略

 本分野では,物質創製と先進評価の新たな発展を狙い,バックキャスト視点に立って高性能代替材料,希少元素代替材料,元素戦略などに寄与する新たな物質の構造・特性や物質創製の基本原理・技術指針等を蓄積している.本年度に重点的に行った研究の成果を以下に示す.
 
 「金属材料の表面処理に関する研究」(興戸グループ) については、環境負荷の小さい常温の水溶液を用いて種々の「大きさとかたち」を作り出し,「機能」を材料表面に与えるプロセスについての研究を展開した.@Ti合金への酸化物被覆による生体親和性表面処理,AMg合金の陽極酸化等の耐食性表面処理,Bコモンメタル・ナノ微粒子の液相合成,Cめっきによる機能部材の作製,等について多くの成果を得た.本研究の成果は,機能性表面の湿式作製プロセスとして,極めて適用範囲が広く,今後の応用研究に重要な知見を与えるものと考える.

 「先端ナノ材料評価のための先進電子顕微鏡の開発」(田中グループ) については、半導体,非晶質,炭素ナノチューブ,準結晶などの先端材料の局所原子構造と電子構造を,高性能電子顕微鏡により解明することを目的とした研究を展開した.収差補正透過型電子顕微鏡を用いて3C-SiC/Si(001)界面の原子配列を解析を行った.独自に開発した偽像処理法を観察像に適用して原子配列像を得ることにより,エピタキシャル界面の3次元原子配列を決定することに成功した.さらに,SiとSiC結晶が積層欠陥を介さずにLomer転位と刃状転位の2次元ネットワークを介してヘテロエピタキシャル接合されることを明らかにした.本研究の成果は,薄膜成長時の積層欠陥導入低減に向けた重要な知見につながると期待される.

 「不揮発性電子材料・デバイスの創製」(浅野グループ) については、強磁性体と非磁性体を組み合わせたナノスピン構造体の作製と,そこで生じる巨大応答現象・量子効果の機構解明,ならびに超低消費電力の不揮発性スピンデバイスへの応用を目指した研究を展開した.二重ペロブスカイト型反強磁性ハーフメタル,ハーフホイスラー型トポロジカル絶縁体等の新機能材料のエピタキシャル薄膜の作製に成功した.その応用としては,ハーフメタル強磁性体/強誘電体積層構造における強磁性・強誘電トンネル効果の同時発現,ダイヤモンドショットキー素子の実現等が挙げられる.今後の展開として,反強磁性ハーフメタル, トポロジカル絶縁体等を用いたヘテロ構造デバイスの作製など新しい課題に取り組む予定である.


 「超高圧超高温下での新材料・新結晶の創製」(長谷川グループ) については、高圧高温密閉空間が容易に得られ,GPa領域の超高圧と数千度の超高温という熱力学条件が容易にかつ同時に達成でき,新しい物質合成場を提供してくれるDAC(ダイアモンド・アンビル・セル)やマルチアンビル型大型プレス装置を開発した.これにより,新物質・新結晶の創製を推進し,@超臨界水中でのルチル型酸化物の結晶成長,AB-O系化合物の高圧高温合成,B新規Cr-F系磁性体の高圧合成,等を中心に,様々な無機物質の高圧合成と相安定性および特性の解明に成功した.


2.エネルギー知略

 本分野では、バックキャスト視点に立って、将来の資源・環境と深く関わるエネルギー問題の解決やナノテクノロジーを活用したエネルギー・環境技術などに寄与する材料テクノロジーの革新的発展を狙い、エネルギーに関連する新たな物質・材料・プロセスの創製に関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。
 本年度は、高効率熱電変換材料・デバイスの開発、環境にやさしい化学プロセスとクリーン自動車のための固体触媒、交互吸着法による半導体ナノ結晶積層薄膜の作製と光電気化学特性制御、SiC溶液成長過程における転位挙動解析などの研究を重点的に実施した。

 「グリーン有機合成のための新規酸化セリウム酸―塩基共同触媒の開発」(薩摩グループ) については、持続可能な社会の構築に向けた環境に優しい科学技術の確立を狙い、「環境に優しい化学プロセス」を実現するための固体触媒開発とその基礎研究を推進した。本年度は酸化セリウム(CeO2)触媒が、"環境にやさしい"中性条件下でのニトリル変換反応に有効であることを見いだした。この反応はには既に村橋らのRu 錯体などさまざまな均一系触媒が開発されているが、グリーンケミストリーの観点から固体触媒がより望まれる。CeO2を用い、ニトリルの水和反応を検討したところ、CeO2は低温条件でも非常に高い活性を示し、その活性は他の金属酸化物よりも2桁以上も高いことを見出した。シアノピラジンの水和反応において、既報の固体触媒及び酵素触媒よりも高い活性を示し、医薬品であるピラジンアミドを高収率で得ることに成功した。さらに、ニトリルのα位にヘテロ原子を有する化合物に対し、高い基質特異性を示した。細孔のない単一金属酸化物で高い基質特異性を発現した初めての例である。この反応をトリガーとして、ワンポットエステル化、ワンポットアミド化及びトランスアミド化反応においてCeO2は不均一触媒で既存の均一触媒に匹敵あるいはそれ以上の性能を示した。また、IRを中心とした解析よりこれらの反応の反応機構を解明した。

 
 「高効率熱電変換材料・デバイスの開発」(河本グループ) については、日本オリジナルの高効率バルク熱電変換材料開発を行った。この材料を、バックキャストテクノロジーの観点から 、デバイス化してデバイス化して太陽エネルギー発電・エネルギーハーべスティングへの応用の道筋をつけることを目標としている。本年度は、無害かつ非希少元素から構成されるSrTiO3(STO)のナノ構造制御(ナノキューブプレート、ナノワイヤアレイ、2D配列粒子膜)により導電率をほとんど変えることなく熱起電力の増大に成功した。また、TiS2系ミスフィット層状化合物自然超格子化により高ZT化を試みた。さらに太陽電池/熱電ハイブリッド発電デバイスの構築と評価を二酸化チタン系色素増感太陽電池、太陽光選択吸収膜、ビスマステルル熱電素子で構成されるハイブリッド発電デバイスを試作し、疑似太陽光を用いて発電評価を行い14%程度のエネルギー変換効率を達成し、本デバイスがSi太陽電池に匹敵するエネルギー変換効率が得られることを正解で初めて実証した。


 「表面プラズモンを利用する半導体ナノ粒子光触媒の高活性化」(鳥本グループ) では、太陽光エネルギーの高効率利用を目的とし、量子サイズ効果を示す半導体ナノ粒子の光触媒活性の高活性化を目指した材料設計を行った。Au ナノ粒子表面に硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子光触媒を固定し、新規金属−半導体ナノ構造体を作製した。得られた複合体の光触媒特性を測定し、金属−半導体ナノ粒子間距離が及ぼす影響を評価した。Au ナノ粒子をコアとして、その表面を種々の厚さのシリカシェルで被覆し(SiO2/Au)、さらにCdS ナノ粒子をSiO2/Auに結合させたのち、トリメトキシシリル基を加水分解することによってCdS-Au ナノ複合体粒子(CdS/SiO2/Au)を作製した。助触媒としてRh を光電着させて光触媒としたところ、CdSナノ粒子のみを用いた場合との反応速度の比(増強率, fenhance)はAu粒子のサイズとAuとCdの距離に依存することを明らかにした。また、石英基板上のAu ナノ粒子薄膜にチタニアナノシート(TNS)とポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA)の交互吸着膜(TNS/PDDA)を積層し、さらに最外層としてCdTe ナノ粒子を担持して、Au-CdTe 複合膜を作製した。複合膜の光電流値はAu-CdTe 粒子間距離に大きく依存して変化した。Au-CdTe 粒子間距離が7.8 nm までは、距離の増加に対して光電流が増加した。しかし、これ以上、Au-CdTe 粒子間距離が増大すると、光電流値は逆に低下した。以上のように、Au-CdTe 複合膜のナノ構造を制御して、Au-CdTe 間距離を適切なものとすることにより、その光電気化学特性を自在に制御することに成功した。

 「SiC溶液成長における欠陥変換 〜超高品質に向けて〜」(宇治原グループ) では、超高品質結晶成長のための溶液法を検討した。結晶品質にこだわりX線トポグラフィーによる評価を進めるなかで、貫通ラセン転位の低減メカニズムが次第に明らかとなってきた。成長はTSSG(top-seeded solution growth)法により行っている。溶媒をカーボン坩堝に導入し、それを温度勾配環境下に保持し、そこに種結晶を張り付けたディップ軸を挿入する。この場合、高温部分で坩堝のカーボンが溶媒中に溶出し、温度の低い種結晶付近で結晶が成長する。今回の実験においては、溶媒にSiを、また種結晶には4H-SiCおよび6H-SiC(0001)結晶を用いた。欠陥評価は、主にX線トポグラフィーを用い、それに加えて熱塩素エッチングと透過電子顕微鏡による評価を行った。X線トポグラフィー、エッチング、TEMの結果から、貫通転位が基底面の欠陥(部分転位、積層欠陥)に変換されていることがわかってきた。CVDのキャロット欠陥に似た形状のコントラストとであったが、キャロット欠陥は貫通転位から転換される確率が10%にも満たないのに対して、本手法では、ほぼ100%の確率で変換している点が大きく異なった。これは非常に大きな意味を持つ。基底面の欠陥は成長方向には継承されず、成長が進行するに従って、これらの欠陥は結晶の外部に排出されることになる。このことは、超高品質(ultra-high quality)の結晶が実現できる。



3.プロセス知略

 本分野では、バックキャスト視点に立って、エネルギー・環境技術などに寄与する材料テクノロジーの発展を狙い、環境にやさしいものづくりに関連する新たな材料テクノロジーや材料創製プロセスに関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。
 本年度は、スラリー高濃縮システム及びスラリー中粒子集合状態評価装置の開発、光機能性ソフトマテリアルの創製、バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発、ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発などの研究を重点的に実施した。

 「1) スラリー高濃縮シテム及びスラリー中粒子集合状態評価装置の開発」(椿 グループ) については、「粒子を凝集させて濾過する」という既存の技術及び開発研究コンセプトにとらわれず,高粒子濃度までスラリーを濃縮するためには「粒子が良く分散しており,高濃縮してもスラリーが流動性を保持している」ことが必要であるという考えに基づき,セラミックスフィルターに螺旋案内付き芯棒を挿入した高濃縮濾過システムDECAFFを開発した.また、スラリープロセスにおいて,現状ではスラリー中粒子集合状態の評価法が十分には確立されていないため,試行錯誤で製品を作成し,製品評価を行ってはじめて最適条件が決定できる.そこで,粒子集合状態の評価手法として,主にミクロン領域の粒子スラリーでは静水圧測定法,ナノ領域の粒子スラリーでは浸透圧測定法を開発した.静水圧測定法に関してはHYSTAPシリーズとして商品化し,浸透圧測定に関しては評価原理を検証した.
 「光機能性ソフトマテリアルの創製」(関 グループ) について、光によるナノ材料構造制御と機能変換システムの構築をめざし、代表的なフォトクロミック分子であるアゾベンゼンを導入した各種高分子系を設計・合成し、界面組織化を組み入れた薄膜形成に基づいた、光形態変化、光分子配向制御、光物質移動、ナノ構造制御を行い構造やその特性を評価した。一方、液晶材料は長距離配向秩序構造を形成する。このことは薄膜のプロセッシング手段において大いに魅力的な特性である。系をうまく設定すれば、界面だけの作用にて膜材料全体を配向させることができる。本年度は、界面との相互作用に主眼においた薄膜の構造と配向制御に関する研究に主眼を置いた。こうした界面操作は、使用目的や規格に合わせた材料プロセッシングに関する強力なツールとなりうるものであり、バックキャストテクノロジーの有力な方法論を提供するものと期待される。
 また、本研究分野に関連して、本年度、関・永野らの論文が材料科学分野の最近10年間の最高被引用度論文に選定された。(Thomson Reuters 社のウェブサイト「Science Watch」)


 「バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の開発」(高井グループ) については、環境に低負荷かつ調和した機能性材料の開発は,環境問題や資源枯渇問題などを抱える現代社会において急務の課題である.バックキャストの理念に基づき,環境負荷の小さいプロセスで環境調和型の高機能性材料を創製する技術開発が重要である.「生物の生み出す物質,構造,機能,プロセスなどを学び,理解し,洗練させることにより,新しい機能材料をデザインし,創製すること」を『バイオミメティック材料プロセッシング』と呼んでいる.本プロジェクトでは,バイオミメティック材料プロセッシングによる環境調和型ナノ材料の創製を目的とした.今年度は、メタルフリー異元素ドープナノカーボン材料の合成と燃料電池用白金代替触媒への応用、ロールツーロール方式による機能性繊維への防水処理技術の開発、ソリューションプラズマによる酸化チタンナノ粒子の高機能化について検討し、多くの知見を得た。

 「ソリューションプラズマプロセッシングによる高機能ナノ材料の開発」(斉藤グループ) については、液中で生成する非平衡プラズマをソリューションプラズマと呼ぶ.ソリューションプラズマが気相中のプラズマとは異なった物理および化学を有している.たとえば,ソリューションプラズマは,超臨界状態を含む溶媒に閉じ込めるという「閉鎖系の物理」が実現している.近年では,直流パルス電源などの開発が進み,非平衡プラズマなどを含むさまざまな液中プラズマの形成が可能となってきた.また高周波を利用した液中プラズマの形成およびその反応場の創成も進められている.このような多種多様な液中プラズマは,環境調和型の材料プロセス設計が重要となるナノ材料創製分野において,最も有望な反応場として期待できる.今年度は、ソリューションプラズマによる金ナノ粒子担持花弁状シリカの合成、PtAuナノ粒子担持カーボンの合成とリチウム空気電池への応用について検討し、多くの知見を得た。



4.安全性知略

 本分野については、バックキャスト視点に立って、産業や社会における安心・安全性の向上に寄与する物質・材料・プロセスの創製に関わる基本原理・技術指針等の知見を蓄積している。
 本年度は、組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化、欠失検出型高感度蛍光プローブの設計、セラミックスを基材にした生体組織修復材料の創製、サーボプレスを用いた荒地逐次鍛造シテムの開発、冷間鍛造用金型の疲労特性、などの研究を重点的に実施した。

 「組織・構造・形態制御による材料開発と高機能化」(金武グループ) については、金属材料および無機材料を対象に、@組織制御(結晶組織の制御)、A構造制御(異種材料の複合化)、B形態制御(ポーラス構造の制御)の観点から、各種の環境調和型材料の開発とそのための環境調和型プロセスの開発を目指している。@では「圧縮ねじり強ひずみ加工法」を用いて、アルミニウム合金の晶出物微細化による機械的特性の改善、黄銅切削屑の固相リサイクルの可能性について検討、Aでは、反応浸透法を利用してAlN/TiB2複合材料を製造する際の生成過程と緻密化過程について検討、Bでは、純Al板を圧延接合した積層プリカーサの発泡特性、反応プリカーサ法によるポーラスFe/TiB2複合材料の作製について検討して、多くの有用な知見を得た。

 「欠失検出型高感度蛍光プローブの設計」(浅沼グループ) については、将来必要とされる塩基欠失検出型蛍光プローブの実用化を見据え、バックキャスト的な観点から3 塩基欠失の蛍光検出を可能にする新たなプローブの開発をめざした。今年度は二種類のペリレン誘導体でラベルした蛍光DNA プローブを合成した。得られたプローブは、野生型を認識するとモノマー発光が観察されたのに対し、3 塩基欠失型を認識するとexciplex 発光を示し、この変化は肉眼でも十分に識別できた。
 本分野に関連して、本年度、浅沼・樫田らの研究論文が、@Angewandte Chemie International Edition誌のHot Paper、および、AChemistry A European JournalのVery Important PaperとInside coverに選定された。

 「セラミックスを基材にした生体組織修復料の創製」(大槻グループ) については、次世代の骨修復用材料には、運動機能を支援する機能だけではなく、骨の再生を促す生物学的機能や、生体内の環境に調和する環境応答機能の付与も目標に入ってくる。これらの機能を同時に付与することで、低侵襲と同時に長期安定した生体適合性の発現が可能になる。現在の基盤技術として、構造材料、生体機能材料、環境応答材料の設計を可能にしておく必要がある。それらの技術開発を目指して、有機−無機複合構造材料のバイオミメティック合成法の開発、高度生体機能発現のための高性能リン酸カルシウム結晶の水熱合成、環境応答性を発現する有機-無機ハイブリッド型骨修復用材料の開発を進めた。これらの基盤技術は骨の修復のみではなく生体機能を修復するための材料として広く展開が期待される。

 「サーボプレスを用いた荒地逐次鍛造シテムの開発」(石川グループ) については、逐次鍛造(インクリメンタルフォーミング)とは,単純な形状の工具を用いて材料に局所的で逐次的な塑性変形を与えることで所望の成形形状を得る成形法であり,高価な金型を省略できるとともに従来の手法では不可能な成形を可能とするフレキシブルな加工技術として注目されている本研究では,コネクティングロッドの荒地形状の製造技術を開発することを目標に,まずその第一段階として,逐次鍛造を利用した高精度加工法の開発を目的とした,サーボプレスと多軸ロボットを連動させた逐次鍛造システムを開発した.FEM解析を用いて材料の圧縮位置,圧縮量を変化させながら,最終形状から最適な加工プロセスを逆算し,その成形経路を元に全自動成形を図った.

 「冷間鍛造用金型の疲労特性」(阿部グループ) については、冷間鍛造用金型において,自動車部品へのハイテン適用に代表される被加工材の高強度化およびネットシェイプ化に伴う応力負荷の増大により,金型の寿命が著しく低下し問題となっている.冷間工具鋼は多量の炭化物を含んでおり,その疲労特性と密接な関係があることが知られている.本研究では,き裂の発生,進展および靭性値に及ぼす炭化物の影響を調査し,一軸疲労試験と,実体の鍛造諸条件を模擬した実験を行うことにより,冷間鍛造用金型の損傷に及ぼす炭化物の影響を調査した.